僕たちは森の中にやってきました。
ふかい森、木が沢山生えていて、
昼間なのにちょっと暗い。
シー、静かに!
どこかでカッコウが鳴いていますよ。
遠くの方で、聞こえますか?
あ、今度は近くでも。
あちらでも、こちらでも、
沢山鳴き始めました。
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天沢聖司の声が高橋一生氏であったと知り、感慨深いものがあります。
耳をすませば、ではなくて、「みみをすます」という、ソルフェージュ教本(町田育弥著 音楽之友社)、この中にカッコウのもり、という練習課題があります。
教師は下方で7つの神秘的な和音を静かに演奏します。その上で生徒の皆さんには「ミ・ド」でカッコウの声を、好きなタイミングで、好きなように弾いていただくというものです。
「ミ・ド」でカッコウを鳴かせてみよう
そうテキストにあります通り、拍数やリズムにとらわれることなく、感じるままに、響きを創り出すことのみに集中できるというのがよいですね。そしてなにより美しい音楽です。
僕は毎回、演奏なさる皆さまの想像力を促すよう、冒頭に記しました物語をお話ししながら弾き始めるようにしております。
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さて、高い低い、長い短い、大きい小さい、遅い速い…
音を表す言葉には対になるものが沢山ございますが、僕はここにもう一つ、遠い近い、を加えておきたいと思います。
遠くのものは小さく、近くのものは大きく、ですから実際のところ音量の大小、ではございます。
しかし、「遠くで鳴っているように」または「近くで鳴っているように」と、このような言葉を使うことにより、僕たちは音楽に絵画的なイメージを与えることができるのです。
そうしますと、単なる音の小さい大きいだけでなく、例えば、
遠くの音は、やわらかく、少しぼやけて、薄霧のかかったような…近くの音はよりくっきりと、豊かに、明晰に…
別れの曲や悲愴ソナタの2楽章など、そのような弾き分けを求められるピアノ曲は枚挙に暇がありません。
早くからこの感覚を身に付けてゆきましょう。
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「耳をすませば」に出てくるバロンのセリフ
「恐れることはない。遠いものは大きく、近いものは小さく見えるだけのことだ。」
こうならないように、お気をつけくださいね。