教則本の語り口~ピアノ初歩導入記②

   

せっかくなので、ピアノ教則本の話をしましょうか。

 

 

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初歩導入の段階で特に決まったの教材を使っているということはありません。

 

5線紙上の音符が分かるようになるまでがとても大切な時期ですから、ここは決して焦らずに。みんなそれぞれ理解のスピードは異なりますから、音と楽譜と鍵盤が完全に一致するまで丹念にやります。ここを超えてしまえば後は早い。

 

音が読めるようになってきた後は、色々な楽譜をどんどん弾き進めていきます。世にある教則本はどれもとてもよく出来ていると思います。僕はそのメソッドうんぬんよりも、そこで語られている「言葉」に注目しています。

    

今日は林光さんの教本からご紹介しましょう。

 

 

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林光の、その名もズバリ「ピアノの本」

 

これは作曲家で優れたピアニストでもあった林光さんが唯一のお弟子さんであった武満マキさん - そう、武満徹の娘さんです - のために書いたピアノメソッドなのです。もうそれだけでゾクゾクします(笑)

 

挿絵や曲のタイトルに若干の古めかしさがあるものの、今となってはそれも一興。なりより解説文の語り口が味があってよいのです。

 

 

「ぜんぶで10本のゆびがある。この10本のゆびでピアノのキイをひくのだ」

 

 

とかいう具合に。

 

なかでも

 

 

「楽譜のなかで、いちばんきびしく決まりを守らなければいけないのは、音の高さと、音の長さだ。それにくらべて、強さ、速さ、つなげるか切るか、指づかいなどは、楽譜に書いてあることをおおよその目安にして、じぶんの感じたように弾けばいいのだ。」

 

 

これは最高ですね!

 

こう言ってくれると、僕なんかは、そうか自由でいいんだ、と思うと同時に、よーし音の高さと長さは絶対に守ってやろうじゃないか!って前向きな気持ちになりますよ。

 

そして音楽をやる上でもっとも大事なこと、「じぶんの感じたように」と書いてくださっていることもお忘れなく。

 

簡単な音形に先生が伴奏をつける連弾課題も沢山あります。この伴奏も斬新過ぎず単調過ぎず、なんてセンスの良い音選びでしょう!弾き進めていくと中には風変わりな現代曲風な音楽も出てきますが、それとて、ユーモラスで親しみやすく、まるでこんにゃく座の舞台が目の前に広がっていくようです。

 

 

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僕自身、林光さんの音楽には幼い頃から馴染みがありました。さらに明大の時には、選択科目に音楽の授業というのがあって、その担当だったのが現代音楽が専門の赤羽由規子先生で、旦那様の印牧慎一郎さんがこんにゃく座の一員ということもあり、林光さんがぐっと身近な存在になりました。

 

後に印牧先生が指揮をしていらした合唱団でピアノを弾かせていただいた時も林光さんの作品をたくさん(書き下ろしの新作も!)やらせていただいたものです。合唱団の演奏会には林さんもいらっしゃってピアノを弾いてくださいました。終始ピアノで遊んでるって感じの面白いおじいちゃん。

 

今またこうして林光さんの曲で音楽好きを育てる仕事に携わっていられるというのが嬉しいですね。